1.自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、遺言者が全文を自筆で書き、日付を記入し、署名・押印する形式の遺言です。この方式は、他の遺言形式と比べて作成が容易であり、費用もかからないことから、広く利用されています。
2.自筆証書遺言の遵守事項
自筆証書遺言は、次の(1)~(3)を遵守しなければなりません。これらを欠いた遺言は無効となりますので注意してください。
(1)全文自筆
遺言の内容を全て遺言者本人が自筆(手書き)で書く必要があります。タイプライターやパソコンでの作成、代筆は認められません。文字の大きさや筆記具の種類に制限はありませんが、読みやすく、消えにくいものを使用することが望ましいです。
※ただし、財産目録を作成する場合は自書ではなくタイプしたものでも認められます。
(2) 日付の記入
作成年月日を明記します。これは遺言の効力発生時期や、複数の遺言がある場合の優先順位を決定する上で重要です。
(3)氏名の自署と押印
遺言者の氏名を自筆で書き、押印します。押印に用いる印鑑は、実印である必要はありません。
3.自筆証書遺言の内容
遺言できる事項は法律で14種類定められており、それ以外の事項を定めても法的効力はありません。14種類の法定遺言事項のうち、主要な事項は以下の通りです。
① 相続財産の分配に関する事項(相続分の指定・遺産分割方法の指定・遺贈等)
② 推定相続人の廃除、または廃除の取り消し
③ 遺言執行者の指定
④ 祭祀承継者の指定
⑤ 認知
⑥ 未成年後見人、未成年後見監督人の指定
4.自筆証書遺言作成の準備
自筆証書遺言は紙とペン、それに印鑑さえあればいつでも作成できます。もっとも、財産に不動産が含まれる場合は、登記事項証明書(登記簿謄本)に書いてある通りの記載が必要ですので、法務局で登記事項証明書を取得しておきましょう。また、預貯金や株式の場合、口座番号等を確認できる資料を手元に準備しておきます。
作成中に誤りや書き損じがあると、訂正には手間が掛かるほか、見た目が悪くなって読みにくくなります。記載内容をまとめるためにも、事前に下書きを書いておくことをお勧めします。書くときは極力ミスのないよう、集中して書きましょう。手が震えて書くのが困難などの場合は、公正証書遺言の利用を検討して下さい。
5.自筆証書遺言の文例
【書き方のポイント】
① 相続人等を記載する際には、当人を確実に特定できるよう、続柄・氏名・生年月日を
記載します。
例:「遺言者の妻・相続花子(昭和●年●月●日生)」
② 不動産は、登記事項証明書(登記簿謄本)の記載通りに記載します。
③ 預貯金口座は、銀行名・支店名・口座種別・口座番号を記載します。
④ 不動産や預貯金など主要な財産以外の財産についても、帰属が決まっていないともめ
事の種になる場合がありますので、誰に取得させるのか記載しておきましょう。
⑤ 遺言の内容を実現するために、登記手続や金融機関での手続を行う者を「遺言執行
者」と言います。遺言執行者は相続人でも、それ以外の者であっても構いません。相
続手続を円滑に進めるため、できるだけ遺言執行者を定めておきましょう。
6.自筆証書遺言の訂正方法
書き途中で間違えてしまった場合は、以下の手順で訂正します。訂正の仕方は法律で決まっており、修正テープを使ったり、黒く塗りつぶしたりしないようにしましょう。
① 間違えた箇所に二重線を引く。
② 正しい記載を「吹き出し」のような形で書く。
③ 余白部分に「●字を削除、●字加入」と書き、署名する。
④ 訂正した箇所に押印する。